「ニッと笑う話」

ニッとその男は笑った。
それを見た女の人は「気持ち悪ッ」と思って足早に立ち去った。
それを見たその男はハハ…と笑った。
待ち合わせの時間になっても、彼女はやってこなかった。
男は、そういう時、できるだけ、目線を、彼女がやってくるハズ
の道から外す様にした。そうしないと、いつまで経っても、彼女は
現れないのではないかと、そう考えていた。
自転車に跨ったまま時間は過ぎる。
また意味も無くニッと笑ってみた。
「気持ち悪。」そう言ったのは二十分ばかし遅刻した彼女
だった。
「こうやって時間をつぶしてたんだよ」と反論してみたが、
自分でも空しくなった。
コンタクトを落としたとかなんとか言って、二人はそのまま
自転車で、進み始めた。
男は、そんな二人を眺めながら昔のことを少し思い出
していた。そして、その逆の方向へと歩き始めた。
空を見上げてニッと雲を見て笑った。「彼のクセが
うつったな」と思った。前から来た美人のお姉さんはニコッと笑い
返してくれた。―6/18(木)

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