その男は店内で
コーヒーを飲んでいた。
机にノートを広げて、物語を書いていた。
書き出しはこうだ。
「その男は店内で」
男は、できるだけ、頭の中をカラッポにしようと努めていた。
その方が、自分でも意外でおもしろい文章が書ける
んではないかと思っていた。
彼はしばらく、意味の通らない、断片的な、文章を
ノートにひたすら書いていた。
例えば、「茶色の猫はガリガリに痩せていた。しかし、
私には彼に与えることのできるものがなかった。
そして、私はそのまま通り過ぎた。」
「そのハトは人間なんかに全く関心が無いと言わんばかりに、
歩道を闊歩していた。すぐそばを自転車が通り
過ぎても、気付いてすらいないようだった。」
など、様々だった。
彼はアイスコーヒーのストローを奥歯でかみしめる
ように、アイスコーヒーを飲んだ。
店内は寒く、夏用の短パンでは寒気を覚えるほどだった。ー7/26(日)